記憶の底に 第5話


言われてみれば確かに、スザクと共に居るとペットボトルの消費が少なかった。
常にかばんには500mlのペットボトルを2本忍ばせているが、最近は1本を飲みきること自体少ない。適正の量を体が欲し、適正の量を口にしているという感じだった。
だが、生徒会室に行くと確かに消費は増える。
いや、違う。
生徒会室が原因ではない。
スザクが来た事。
そしてリヴァルとシャーリーの言葉で、今まで気付けなかった事・・・いや、気づいてはいたが、そうだと認めたくは無かった事をようやく認める事が出来た。

そして、それを認めたことで、より一層激しい渇きに襲われるようになった。



リヴァルとシャーリーの話を聞いた後、どの段階でルルーシュが水を手に取るのか注意深く観察しようと思ったのだが、僕の様子からその事に気付いた二人に呼び出され、教えられた内容でようやくルルーシュの乾きの原因を理解した。
そう、ジュリアスの時も水を欲したが、牢に囚われていた間・・・ギアスに抗った結果起きた記憶障害で、あの夏の日の記憶に囚われていた間は水を欲しがらなかった。
ジノは偽りの親友。
ロロは偽りの弟。
ヴィレッタは偽りの教師。
だから彼らと接すると、無意識下の心が否定の声を上げ、これは嘘だ、本当は違うのだと、足掻く。本当の記憶を求め、その代用品として水を欲する。
スザクは友人・・・かつて親友だった。
リヴァル達もあの頃と変わらない友人だ。
本当の友人と共に居れば、本当の記憶に満たされているため、水を必要としない。
理解はしたが、解決するすべがない事にも気付き、僕は自分の無力さを痛感した。
リヴァルの話では、この1年でルルーシュの体重は5kgは落ちたという。
元々細身だったのに、今はさらに細くなり、その体は頼りない。
運動をしても以前よりもスタミナ切れが早く、体育教師であるヴィレッタが、体調を崩しているのは自業自得だ、体育の授業はちゃんとを受けろと、無理をさせ倒れてからは見学しているという。
体調を崩している為、食べ物を口にしても戻す事も多く、このままでは大変な事になるのではと、二人は心配していた。
そして、僕が原因で水分量が減るなら、傍にいてあげてほしいと頼まれた。
その原因の一端を担う僕に、だ。
笑うしかない。
C.C.をおびき寄せるための餌だから、それまで生きていればいい、そう思っていても。
機密情報局内の監視カメラの映像の中で、夕食の用意をしている細い姿を視界に入れながら、誰にも聞こえないほど小さな声で僕はポツリとつぶやいた。

「ユフィ。僕はどうしたらいいんだろう」

青白いあの顔は、まるであの日の君のようで。
ゼロの記憶もない、何も知らないルルーシュが苦しむ姿は見ていて辛い。
君を殺した憎むべき相手なのに。

「君なら、どうするだろう」

答えなど出ているのに、僕は再びポツリとつぶやいた。




ずっと、おかしいなあとは思っていた。
ルルーシュがガブガブと水を飲むのは、いつも決まってジノとロロが居る時だ。
最初は偶然かと思ったけど、シャーリーにその話を振った時「やっぱりそう思う!?」と返され、ああ、やっぱりそうなんだと思った。当然会長も気づいており「何かあったのかしらね?」と首をかしげていた。
理由なんて解らない。
でも、ジノとロロが居るとルルーシュは水を飲む。それだけは解っていた。
普段も凄い量の水を飲んでいるが、あの二人が居るとその量は跳ね上がるため、俺とシャーリーは休み時間になると今スザクがしているように、勉強で解らない事があるとルルーシュに聞くようになった。
そうすれば、休み時間にやってきたジノとロロは退散するしかないから。
水の飲み過ぎでお腹もよく壊しているし、何よりどんどん痩せていっている。
だからせめて授業が終わるまでは水を飲む量を減らしてやりたい。
そんなある日、スザクが復学してきた。
1年前のほんの短い間だけ居たクラスメイトで同じ生徒会役員。
ルルーシュとは仲が良かった・・・はずだ。
その辺がどうも曖昧でよく覚えていないが、それはきっと殆どスザクが授業に来れなかったからだと思う。
スザクが戻り、俺達と休み時間も話すようになってから、ルルーシュは水に手を伸ばす回数が減っていった。
俺とシャーリーは、そこでまた何でだ?と首を傾げるしかなかったが、水を飲む量が減った事だけは間違いなかった。
おかげで放課後までの間ルルーシュは殆ど水を口にし無くなり、顔色もどんどんよくなっていった。青白かった顔にも赤みが差し始め、俺たちはほっと安堵の息をついた。

「やっぱりスザク君だよね」

休み時間となり、にこやかに談笑しているルルーシュとスザクを見ながら、シャーリーが俺の耳元で囁いた。

「だよなぁ。何でだろうな。まあ、俺とシャーリー、そして会長と居る時も飲む量はそんなに多くないんだけどな」

俺も二人に聞こえないよう小声で話す。

「そうなんだよね。あ、私もう一人気づいたんだけど、ヴィレッタ先生と話をした後もルル、凄く水を飲むんだよ」
「先生も?何かあるのかなぁ」
「わからない。でもルル、前より笑う様になったよね」

それまでも確かに外面よく笑う奴ではあったが、異様に水を飲むようになってからは、本当に笑う事が少なくなり、作り笑いばかりしていた。ジノとロロに対しても、だ。

「なんでだろ?ルルーシュとジノは幼馴染で親友で。いつも一緒に居るけど、俺はルルーシュとスザクが一緒に居るほうが見慣れてる気がするんだよなぁ」

スザクは短い間しかいないはずなのにな。

「リヴァルも?私もそう思う。ルルの隣にはスザク君がいつも居た気がするんだよね」

今みたいに。
俺たちが最初に違和感を感じたのはこの時。
何かがおかしい。
その何かが解らず俺たちは悩み続けた。

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